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大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)4818号 判決

原告 通商建材センター株式会社

右代表者代表取締役 飯室通夫

訴訟代理人弁護士 石川元也

同 鈴木康隆

被告 新菱建設株式会社

右代表者代表取締役 大谷英

右訴訟代理人弁護士 宇佐美幹雄

同 宇佐美明夫

同 大田直哉

同 浅岡建三

主文

被告は原告に対して金七二万六、六三五円およびこれに対する昭和四二年九月一三日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決の第一項は、原告が金二〇万円の担保をたてたときは、仮に執行することができる。

事実

第一当事者双方の申立

一、原告

主文一、二項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求める。

二、被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決を求める。

第二原告の主張

(請求原因―売買の主張)

1  原告は建築材料の製造販売を業とし、被告は建築を業とするものである。

2  原告は、被告が京都府住宅供給公社から請負った同社延明寺団地建設工事に関し、昭和四二年一月から同年三月二二日までの間に被告に対し別紙Ⅰ明細書記載のとおり合計一八一万三、八一九円相当の建材を販売納入した。そして、そのうち原告が別紙Ⅱ明細書記載のとおり合計一〇八万七、一八四円相当の建材を引取ったので、結局、被告に対し残代金七二万六、六三五円の請求権を有している。

3  よって原告は被告に対し右代金七二万六、六三五円およびこれに対する本訴状が被告に送達された翌日である昭和四二年九月一三日から完済まで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(同―名板貸責任の主張)

4  かりに、上記2の取引の相手方が被告でなく、訴外株式会社入江工務店であるとしても、被告は商法二三条にいう名板貸責任がある。すなわち、

(1)  原告は、昭和四一年二月から被告と建築材料の販売取引があり、本件取引以前においても、被告の建築工事現場(佐野住宅、第一貨物、神戸現場、日本盛、安治川ターミナル、八田荘、豊南小学校、西宮福祉センターその他一〇ヶ所)に対し建材等を納入していた。しかして右の場合、それぞれ被告大阪支店又は各現場事務所の担当者との話合いで指定の建材を直接現場事務所に納入し、請求書も現場事務所あてに送り、被告大阪支店経理課から支払を受けることとなっていた。

(2)  しかるところ、昭和四一年一〇月ごろ原告会社の担当社員野崎朝三は、被告会社大阪支店において、同会社延明寺団地建設工事担当主任山崎省己と面会し建材の注文をしたところ、現場に来てくれということであったので、二、三日後延明寺現場事務所に赴き、同人と再会し、同所で同人から紹介された資材係中村富男から建材注文の明細書を受取って、以来上記2のとおり建材の納入をしてきた。

(2)  そして原告は、その後被告に対し従前どおり右代金の請求をしたのであるが、昭和四二年四月末ごろ被告大阪支店から「本件延明寺現場の建材は下請会社である訴外株式会社入江工務店の注文であり、前記中村富男は同会社の従業員であるから、被告に右代金の支払義務がない」という回答に接した。

(4)  しかし、前記中村富男が訴外入江工務店の従業員であり、本件建材が同会社の注文であったとしても、原告会社の担当社員野崎が前記のとおり被告社員山崎から右中村富男を紹介されたさい、同人は「新菱建設株式会社大阪支店中村富男」という名刺を使用していたし、また、前記延明寺建築工事々務所には、被告の表示がしてあるだけで入江工務店の表示は一切なく、かつ、同事務所内に右中村が机をおき、被告社名の入ったヘルメット並びに制服を着用して執務をしており、しかも、被告は本件延明寺団地建設工事に関し京都府住宅公社との間に下請禁止の契約を結んでいたものであるから、被告は訴外入江工務店に被告の商号を用いて営業をなすことを許諾していたものというべく、被告が注文主であると誤認して本件取引をした原告に対し、被告は右訴外会社と連帯して本件売買代金七二六、六三五円を弁済すべき責任があるといわなければならない。

(抗弁に対する答弁)

5  右名板貸責任につき原告に重大な過失があったとの被告の主張は争う。なるほど、原告と被告との取引については、被告主張の注文書一通、購売カード二通の書類を作成することが例となっていた。しかしその取引において必ずしも書類が先行していたものではなく、電話、口頭による註文による納品が行われ、しかるのち、被告から原告に注文書、購売カード等の送付される例が多くあった。さすれば、原告は本件取引にさいし、被告から注文書、購売カード等を受取っていないけれども、それは従前の例と同様、後日これらの書類が送付されるものと考えていたからであり、原告がそう考えて上記4のいきさつから本件取引の相手方を被告と誤信した点につき重大な過失がない。

第三被告の主張

(請求原因―売買の主張に対する答弁)

1  請求原因第1項の事実は認める。

2  同第2項の事実のうち、被告が京都府住宅供給公社から同社延明寺団地建設工事を請負ったことは認めるが、その余の事実は否認する。

被告は、右工事のうち、原告主張のような建材を使用するいわゆる内装工事については、訴外株式会社入江工務店に材料込みでの一括下請させていたものであって、原告からその主張のような建材を買受けたのは、右訴外会社であり、被告ではない。

(同―名板貸責任の主張に対する答弁)

3  請求原因4の(1)の事実のうち、本件取引前、原告主張のように原、被告間に建材取引が行われていたこと、指定の建材を直接現場事務所に納入し、請求書を同事務所に送付し被告大阪支店経理課でその支払をするとの点は認めるが、その余は争う。

4  同4の(2)の事実のうち、被告社員山崎が昭和四一年一〇月ごろ延明寺現場事務所で原告社員野崎に訴外中村富男を紹介したことは認めるが、その余は争う。

5  同4の(3)の事実のうち、原告の納品していた本件建材は、被告の下請をしていた訴外入江工務店の注文によるものであることは認めるが、その余は争う。

6  同4の(4)の事実は否認する。

被告は、訴外入江工務店若しくは訴外中村に被告の商号を用いて営業をなすことを許諾したことはないし、また訴外入江工務店若しくは訴外中村が被告の商号を使用して営業したこともない。

なお、商法二三条の名板貸責任が成立するには名板借人が、少くともその名称を営業について使用するのでなければならない。換言すれば、名板借人は、名板貸人の名称を用いて自己の営業を行う独立の企業主体であり、商人でなければならないものである。しかるに本件の場合、訴外中村は訴外入江工務店の従業員であって独立の営業主体ではないのであるから、この点からも被告に名板貸責任の発生する余地がないということができる。

(抗弁)

かりに原告が被告を営業主と誤認したとしても、その誤認をしたことにつき、以下述べるように原告に重大な過失があったから被告に名板貸の責任がない。

1  被告は、原告からこれまでに数回に亘り建材類を買受け納入を受けていたが、右買入事務についての原告の担当社員は野崎朝三であった。しかして被告は、建材等の購入の開始に当って原告に対し購入の手続および代金の支払方法について次のとおり充分説明し、やかましく念達、厳重注意したうえで取引をしたのである。

(1)  物品の購入については、被告大阪支店において資材購入の担当者から購入物品明細書を原告ら業者に手交する。

(2)  原告ら業者は、右明細書により被告に見積書を提出する。

(3)  被告は、見積書を提出した原告ら業者のうちから適当とするものを選んで納入者を決定、通知する。

(4)  右通知の承諾があったとき、被告資材購入担当者は注文書一通、購売カード二通の三部一組の書類を作成し、原告ら業者に注文書を送付するとともに原告ら業者に注文書を工事現場に納入させる。なお被告現場に購入カードの一通を送付する。

(5)  現場に納入したときは、納品書又は請求書に被告現場担当者捺印を求め、これを被告大阪支店に送付させる。

(6)  代金の支払は右のような手続を経たものについて注文書毎に番号を明示して区分整理して指定日までに請求されたときこれを被告大阪支店経理課で支払う。

(7)  被告は現場係員だけで購入の注文をしない。必ず被告大阪支店購入担当者において行う。

(8)  支払請求のさい、注文書毎に明確に区分、整理されないときは、支払が困難である(注文書のないものは支払できない)。

2  しかして、原、被告間の従前の一一回にわたる取引については右のとおりの手続が遵守され、見積書、注文書の交換がなされて代金の決済が行われていたものである。

しかるに、本件の場合、原告担当社員は前記野崎朝三であるところ、同人は、本件建材の納入につき前記手続を履行しておらず、被告から注文書を受取っていないなどの事実から本件建材が被告の注文によるものでないことを容易に知り得たのにもかかわらず漫然、本件建材を納入したのであるから、原告において営業主を被告と誤認したことに重大な過失があったものというべく、被告は本件名板貸責任を免れるものである。

第三証拠≪省略≫

理由

(売買の主張に対する判断)

一、原告が建築材料の製造販売を業とし、被告が建築を業とする会社であることは、当事者間に争いがない。

二、原告は、昭和四二年一月から同年三月二二日までの間被告に対し京都府住宅供給公社延明寺団地建設工事に関し別紙Ⅰ明細書記載のとおり一八一万三、八一九円相当の建材を販売納入したと主張する。被告が京都府住宅供給公社から右延明寺団地建設工事を請負ったことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫を総合すれば、被告が京都府住宅供給公社から前記延明寺団地建設工事を請負ったのは昭和四一年五月ごろであり、その後、業界新聞によりこれを知った原告社員野崎朝三は、同年一〇月ごろ大阪市北区梅田町二番地所在の被告大阪支店に赴いて、同支店資材課長代理の今泉重行に対し本件建材の受註方申し入れをした。そうすると、右今泉は、即答をしないで偶々その場に居合せた、右工事の現場主任である被告社員山崎省己を呼寄せて野崎に引き合わせ、右山崎は野崎に対し、「二、三日後に京都府乙訓郡大山崎村延明寺所在の被告方延明寺団地建設工事現場事務所(以下これを延明寺現場事務所という)へ来るように」と話しをした。そこで原告社員野崎は、その二、三日後に右延明寺現場事務所に出向いて前記山崎と会ったところ、右山崎がその場に居た中村富男を紹介したうえ、「注文は同人から取るように」と言ったので、右中村が被告の従業員であると思っていた野崎は、右中村に対しあらためて建材の註文をきき、翌昭和四二年一月三〇日から同年三月二二日までの間、前後六回に亘り別紙Ⅰ明細書記載のとおり代金一八一万三、八一九円相当の建材を前記延明寺現場事務所に送付し、なお、その納品書や代金請求書は同事務所に郵送したり、右中村に手交していたことが認められ、これを動かすに足る証拠がない。ところで、右中村富男が被告従業員であることは、本件全立証によるもこれを確認することができず、かえって、≪証拠省略≫によれば、右中村富男は、昭和四一年六月ごろ被告と前記延明寺団地建設工事のうち内装工事の下請契約をした訴外株式会社入江工務店の従業員であることが認められる。してみると、原告から前記建材を買受けたのは、被告でなく訴外株式会社入江工務店ということになるのであるから、原告の前記主張は理由がない。

(名板貸責任の主張に対する判断)

三、そこで原告主張の名板貸責任について判断する。

(一)  原告が昭和四一年二月から被告と建材取引があり、本件取引以前においても、被告の建築工事現場(佐野住宅、第一化物、神戸現場、日本盛、安治川ターミナル、八田荘、豊南小学校、西宮福祉センターその他一〇ヶ所)に対し建材等を納入していたことおよび右の場合、原告は被告から指定された建材を直接、右各現場事務所に納入し、請求書も同現場事務所にあて送り、被告大阪支店経理課から代金の支払を受けていたことは、いずれも当事者間に争いがなく、原告社員野崎朝三が昭和四一年一〇月ごろ、被告大阪支店および延明寺現場事務所において延明寺団地建設工事担当の被告社員山崎省己と会い、右現場事務所で紹介された中村富男から本件建材の注文をとって昭和四二年一月三〇日以降同年三月二二日までの間、代金一八一万三、八一九円相当の本件建材を同現場事務所に納入していたことは、前述のとおりである。しかして、≪証拠省略≫を総合すれば、

1  前記延明寺現場事務所は、プレハブ二階建々物であるが、その屋上に「新菱建設」と被告社名を表示した大看板が掲示されており、同建物の内外に訴外入江工務店を表示するものが一切なかったこと、

2  右建物の階下は倉庫、二階は事務所となっており、同二階には被告社員である前記山崎省己が常駐し、同人の机や前記中村富男ほか一、二名の机が設備されていて、同人らは同所でともに執務していたこと、

3  原告社員野崎が被告社員山崎から前記のとおり中村富男を紹介されたさい、右中村は、被告大阪支店社員の肩書ある名刺を呈示し、しかも同人は、その後も原告社員木山学らに対し、みづからを被告大阪支店の社員と称していたこと、

なお、中村が野崎に呈示した前記名刺は、その表面に中村富男の氏名と被告大阪支店の肩書表示のあるほか被告の大阪支店並びに本店の各所在地、電話番号が印刷され、裏面に延明寺新菱建設作業所とゴム印が押捺されているものであり、前記被告社員山崎は、本件当時、中村が右のような名刺を関係者に使用していることを知っていて、あえてこれを阻止しなかったものであること、

4  本件当時、右中村富男は被告のヘルメットおよび制服(被告社名入り)を着用し、また被告の便箋を使用していたものであって、前記事務所を訪れた被告幹部社員も右事実を黙認しており、中村は本件建材取引のさい、その書類作成に右便箋を用い、原告社員野崎にこれを交付していること、

5  被告は、京都府住宅供給公社から請負った延明寺団地建設工事につき他の業者に下請させることを禁止されていたものであり、本件取引当時、原告社員らはこれを知らなかったが、被告社員山崎はそれを知っていたこと、

以上の諸事実が認められ、さらに≪証拠省略≫によれば、原告は、被告との従前における取引状況、本件取引に至るいきさつおよび前記1ないし4の諸事実から、訴外入江工務店がその従業員中村富男をして担当させていた延明寺団地内装工事の営業主を被告と誤認し、本件建材を延明寺現場事務所に販売納入していたところ、昭和四二年四月中ごろに至って、本件取引の代金支払につき不安を感じ、被告大阪支店に照会した結果、本件取引の註文主が、業界に名が知られず、かつ、これまで原告と取引実績のない訴外入江工務店であることを知り、そのころ同工務店が倒産するや、急拠、それまでに納入していた本件建材のうち別紙Ⅱ明細書記載のとおり代金一〇八万七、一八四円相当のものを延明寺現場事務所から引き揚げたことが認められる。

右認定に反し、証人今泉実行は「原告社員野崎が昭和四一年一〇月被告大阪支店に来たさい、同人に延明寺団地内装工事を下請業者でさせることを話した。」旨証言し、証人山崎省己は「野崎に対し入江の中村と言って中村富男を紹介した。」旨証言しているけれども、右各証言部分は、証人野崎朝三の証言および前認定の諸事実に対比して措信することができないし、かりに右各証言部分のとおりであったとしても、前記1ないし4の事実関係のもとでは、原告の営業主に対する前記誤認を否定するに充分でない。

もっとも、証人野崎朝三、同木山学、同小阪努の各証言中には「原告が昭和四二年四月ごろ本件建材のことで被告大阪支店に照会した動機は、右代金の支払が遅れていたためである」という趣旨の供述部分が存在するけれども、同証人らの証言および証人今泉重行の証言によると、原、被告間の従前取引における建材の代金支払方法は、毎月二〇日締切、その月末から起算して四ヶ月目の末日に原告の取引銀行口座に現金が振込まれるというのであったことが認められ、したがって、原告が被告に本件建物を販売していたものとすれば、その最初の納品が昭和四二年一月三〇日なのであるから、その弁済期は同年六月末日ということとなり、同年四月当時では、まだ弁済期に至っていないので、前記証人野崎、同小山、同小阪らの証言部分は誤りであることが明らかである。しかし他方、右事実関係については証人野崎朝三、同今泉重行の各証言を総合すれば、昭和四二年四月当時原、被告間に八田荘工事現場に関する建材取引があり、その取引過程でたまたま原告は、被告の経理帳簿に本件建材の記帳されていないことを知り、支払に不安を感じて同月中ごろ原告社員野崎が被告大阪支店で同店今泉課長代理にといあわせ、その結果、本件建材は訴外入江工務店の注文によることを知ったものであることが認められるから、証人野崎朝三、同木山学、同小阪努の証言中に前記誤りがあるからといって、これをもって原告の営業主誤認に関する前認定を左右することができない。

(二)  しかるところ、前記認定事実によると、被告は京都府住宅供給公社との前記下請禁止契約を蝉脱するために、延明寺団地内装工事に関し自己の商号を使用して建築営業なすことを訴外入江工務店に明示的に許諾していたものであり、かりに右のような蝉脱意図がなかったとしても、同入江工務店が被告の商号を使用して右工事に関し建設営業していることを知りながら、あえてこれを阻止せず、黙示的に許諾したものというべく、そして、原告はそれにより訴外入江工務店の右営業の営業主を被告と誤認して本件建材を販売納入したのであるから、商法二三条の規定に基づき被告は、原告に対し本件建材代金七二万六、六三五円につき訴外入江工務店と連帯してこれを弁済すべき責任がある。被告は、前記中村富男は訴外入江の従業員であって独立の営業主体ではないから、この関係で被告に名板貸責任の発生する余地がないと主張しているが、しかし本件は、被告が訴外入江工務店に自己の商号を使用することおよびそれを用いて延明寺工事現場での内装工事に関する営業をなすことを許諾したものであり、それによって原告は、訴外入江工務店の右工事現場における内装工事々業の営業主を被告と誤信して本件取引をしたのであるから、そこに被告の名板貸責任の生ずることが明らかであって、被告の右主張は採用できない。

(重過失の被告主張に対する判断)

四、被告は、原告が重大な過失に基づき営業主を誤認したものであるから、被告は名板貸責任を免れると主張する。

よって検討するに、≪証拠省略≫を総合すれば、本件取引前、被告との建材購入を担当していた原告社員は、主として前記野崎朝三であり、従前の取引については、その当初、被告の主張する建材購入の手続、代金支払方法によって行われていたことを認めることができる。しかしながら、前述のとおり、原、被告間の建材取引は昭和四一年二月に始まり佐野住宅現場十数ヶ所に関して行われていたものであり、右各現場における取引回数も多数に及んでいたことを推認するに難くはなく、≪証拠省略≫によれば、原、被告間の右多数に亘る取引のうちには被告が主張しているような建材購入手続が必ずしも履行されておらず、被告大阪支店や工事現場から原告に電話注文文する場合があったり、建材納入後、半年も遅れて原告に注文書が届けられた場合のあったことを看取することができ、げんに、≪証拠省略≫を総合すれば、前記八田荘工事に関し(一)昭和四一年一一月一八日納品したものが、その後二ヶ月を経過した昭和四二年一月二六日に註文書(購売カード)作成、(二)昭和四一年一一月二日納品したものが、約一ヶ月半経過した同年一二月一五日に註文書(購売カード)作成、(三)昭和四二年二月一五日、一六両日納品されたものが、その後約四ヶ月経過した同年六月七日に註文書が作成、(四)三菱重工業所工事に関し同年四月二六日納品されたものが、その後四九日間経過した同年六月三一日に注文書作成されていることをそれぞれ認めることができる。しかるところ、原告が本件建材を延明寺現場事務所に納入したのは昭和四二年一月三〇日から同年三月二二日までの五二日間であり、そしてその間原告は、同事務所に納品書や請求書を届けていたことは前認定のとおりであって、さらに≪証拠省略≫を総合すれば、原告は、前例と同様、後日被告から注文書をもらえるものと思って本件建材を前記事務所に納入していたことが認められる。

してみると、本件建材取引につき原告が被告から註文書を受取らず、あるいは被告主張の購入手続を履行していないで納品していたとしても、それをもって原告に重大な過失があったといい難く、そのほか全立証によるも、原告において営業主を被告と誤認したことにつき重大な過失があったものと認められない。したがって、被告は本件名板貸責任を免れることができない。

(結論)

しからば、名板貸責任に基づき被告は原告に対し本件建材代金七二万六、六三五円およびこれに対する本件訴状が被告に送達された翌日であること一件記録により明らかな昭和四二年九月一三日から右完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払う義務があるから、これが履行を求める原告の本訴請求は、正当として認容すべきである。

よって訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 広岡保)

〈以下省略〉

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